無題

何にも折られぬ剣となれ。そう言われた少年は、血を吐く想いで誰にも負けぬ強さを手に入れた。
何にも貫かれぬ盾となれ。そう言われた少年は、血を吐く想いで誰にも折れぬ屈強を手に入れた。
それだけではなく、彼はさまざまな事を言われ、言われただけの一番をつねに求めた。あるときは管弦を。あるときは詩歌を。あるときは学問を。あるときは芸術を。生まれ持ったその類い稀なる美貌は彼がそうなるべくしてなったに違いない。
そうして能力の上で神霊に等しい人物となったとき、少年は最後にひとつだけ求められた。誰にも劣らぬ強き高貴である。
彼は結果として誰にも劣らぬ人間となった。しかしそれは同時に、彼に唯一の欠点を与えた。何者にも劣らぬならば、きっと彼は何者を蔑んだとしても、何者にも恨まれまい。まして、言い返すものなどいるはずもないだろう。
兎角彼をすぐれた人間に育て上げた大人は八割の満足と二割の後悔をもって彼を見る。少年を正しくさせたのは彼だろう。同時に、少年を間違わせたのも彼だろう。
Copyright (c) 2014 HIWADA All rights reserved.