影と生きる

「おまえは、影だ」
「上様を影から助けよ。上様を狙う影を、影によって仕留めよ」
「そして――そのまま影と消えよ」
「それが、我が血を持って生まれてきた宿命である」
少年は常に日の当たらぬ場所で生きていた。少年はだれにも称賛されず、卑下もされず、ただただ、誰の目にも留まることはなく生きていた。人は、人の影にはわざわざ目を向ける事はない。闇とは元来生き物にとっての敵である。蝙蝠や深海魚のように、闇に生きるための術を手に入れた種族ならよかった。だが生憎、人は闇を退ける術を覚えることによって生きながらえた。火をなくした人は闇を敵とみなす。敵とみなすからこそ、火を使う。
彼は己の生まれを憎んだ。旧文明の血筋を食いつぶして生きる両親にも嫌気がさした。しかし彼は大嫌いな両親の庇護にないと生きられなかった。そういう彼自身が一番に嫌だったかも知れない。
人は生まれながらにして影だろうか?
生まれでその力は決まってしまうのか?
血筋で身分の決まらない、いい時代だと言う。努力によって上にのし上がれる新しい時代だと。しかし、この世界においてそのような理屈が通用することがあるだろうか? 否。実際、血筋によって行使できる力は違う。結局のところ、血だ。血筋だ。遺伝子だ。滑稽なことだ。実際には血によって身分が決まる時代と変わっていることはないのに、人は見掛けだけの平等に躍らされる。
だから、少年は、ずるをしようとした。
単純な話だ。もしかしたら、それを、ずるとすら呼ばないかもしれないほどに単純な話である。
自分は卑怯だから、
(――強くなろうと、そう思った)
『すごいなあ、君は。僕、君みたいになりたいよ!』
(だから、そんな目で見ないで)
(いまもずるをしなきゃまともに戦うことすらできないボクを見ないで)
(ずるくて、意地汚いボクを、見ないで)
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